これまで退院サマリーの質的監査に関する情報を収集してきたが,「退院サマリー作成に関するガイダンス」と(それをもとにして作られた?)「HL7 CDAに基づく退院時サマリー規約」の2つの文書に集約されることに辿り着いた。
これらの文書は多職種間や多施設間で患者の診療情報を共有する要となる退院サマリーが標準化されていないのはおかしいという問題意識に立って作成されたもので,2019年10月に厚生労働省標準となり,現在ではこの規約に則って退院サマリーを作成しなければならないことになっている。
退院サマリーの質的監査を行うには,まず退院サマリーとはどういうものか,どういった情報が書かれているべきかを,明らかにしなければならないが,この標準化によってそれはもう終わっている。次に,書かれている情報の質を監査しなければならないが,それには基準が必要である。しかしながら, 「退院サマリー作成に関するガイダンス」のP14には<退院サマリー監査について>という記述があり,退院サマリーの定量評価の実例が挙げられている。これに従えば質的監査の評価得点が得られるということである(十分な記載があれば2点,記載はあるが不十分だと1点,記載なしだと0点,そして該当なしだとN.A.)。であれば,我々は何をすればよいのか?
例えば,退院サマリーの定量評価の実例の1項目目には「退院時診断名:適切に抽出列記されているか(主たる対象のみならず主要既存症が上げられているか)」という記載がある。これを機械的に評価できるだろうか?
「 適切に抽出列記されているか」どうかは電子カルテでその患者のプロブレムリストを見なければわからない。「主たる対象のみならず主要既存症が上げられているか」も然り。したがって,これを評価するには退院サマリーの記載だけでは不可能である。すなわち,自然言語処理の出る幕ではない。
次に,退院サマリーの定量評価の実例の2項目目に「退院時診断名:各診断名について発生時期の適切な記載,必要コメントの記載がなされているか」というのがある。これについては退院時サマリ―から「発生時期」の記載が見つかれば,「必要コメント」の記載が見つかれば評価できる(ただし,十分な記載か不十分かは別途基準が必要)。つまり,この第2項目目は第1項目目と違って自然言語処理の出番がある。
このように,まずはこの定量評価の実例の各項目について,退院サマリーだけで評価可能かどうかを選別する必要があろう。そして,評価可能であれば,その際の基準を明確にし,評価不能であれば,では,どうすれば評価可能になるかを考えることである。こういった地道な作業が結局は大切なんだと思う。それを他院サマリーを機械学習に突っ込んで分類するなんてあまりに乱暴で根拠薄弱である。
また, 「HL7 CDAに基づく退院時サマリー規約」のP49以降には付属書A「記述方法」というのがあり,退院サマリーの各項目(A1.退院時診断~A12.事前指示の12項目)に対する具体的で詳細な記載方法が説明されている。これは上述した「何が十分で何が不十分か」の判定を下すうえで参考になるかもしれない。
まずは,これらの文書を読みこなすことである。そして,退院サマリーの自動化を行う際,どこまでが自動化でき,どこからは自動化できないかを見極めることである。
機械学習ができることは多くはないかもしれないが,それでも面倒で時間のかかる単純作業は機械学習でできるかもしれない。何より客観的な基準が設定できれば退院サマリーの質的監査が一医療機関だけでなく全国の医療機関で標準化できるかもしれない。それはそれで素晴らしいことではないか。
また,標準化された退院サマリーはPHRにとっても重要な情報源であるという考え方には共感する。もし,医療機関が退院時に標準化された退院サマリーのCDAをUSBに入れてくれたら,それをPHRに取り込むことによりEHRが実現できるのではないか。USBではなくそれがクラウドであればどうか?もう,それは紛れもないEHRそのものではないか。今やっている大掛かりなシステムを構築しなくとも,(SS-MIXのような)リポジトリ―だけあればEHRが実現するというのは素晴らしいことではないか。
0 件のコメント:
コメントを投稿